2005年07月31日
グラディエイター―古代ローマ剣闘士の世界
グラディエイター―古代ローマ剣闘士の世界ステファン ウィズダム(著), 斉藤 潤子(翻訳), アンガス マックブライド(彩色画)
新紀元社 (2002-06)
¥ 1,890
ISBN:978-4775300909
古代ローマの剣闘士について、その装備、生活などを豊富な図版とともに詳しく解説している。
剣闘士の試合はローマ世界で大人気のショーであった。一口に剣闘士と言っても、観客を飽きさせないため、種類の異なるいろいろな剣闘士がいる。トラキア剣闘士とか魚人剣闘士等々、言葉だけで説明されてもよく分からないが、鮮やかな彩色画を見ながら解説を読むと分かりやすいものである。
映画のシーンなどでは試合に負けた剣闘士は、偉い人が親指を下に向ければ殺され、親指を上に向ければ助けられている。しかし、この本によるとそれは逆らしい。
歴史学者たちは観客が死を宣告する指の仕草について長年議論を重ねてきた。現在は、親指を突き上げた拳と共に「斬り殺せこのように結論した根拠は書かれていないが、その点についての研究史も知りたいものである。」と叫べば処刑し、親指を下げれば武器を置いて放免したと考えられている。
投稿者 augustus : 2005/07/31 09:51 | コメント (0) | トラックバック (0)
2005年07月23日
戦争で読む「ローマ帝国史」 建国から滅亡に至る63の戦い
戦争で読む「ローマ帝国史」 建国から滅亡に至る63の戦い柘植 久慶(著)
PHP研究所 (2005-07-01)
¥ 580
ISBN:978-4569664170
ローマ帝国の歴史を戦争を通じて読みとろうとする本。
確かに、ローマの歴史は戦争の連続であり、ローマの歴史を戦争を通じて読みとろうというのは面白いテーマであろう。しかし、一方で歴史は戦争だけで動くわけではないので、この本でローマの歴史を知ろうというのは無理である。この本を読むなら、ローマの戦争の物語を気楽に読むという姿勢が良いと思われる。
また、残念ながら内容の誤りがあちらこちらに見られる。
例えば、ローマ市民をその資産によって第1階級、第2階級などの階級に分けそれぞれの階級毎に武装を定めた話をタルクィニウス・プリスクス王に帰している。おまけに、このタルクィニウス王は息子の不祥事で追放されて王政が終わったなどという大間違いが書かれているのだから、他の部分の記述も正しいのかどうか心配になってしまう。
また、ローマを戦争を通して見る本が、ポエニ戦争で「ローマの盾」ファビウスについて何一つ記述しないというのは、いかがなものだろう。第2次ポエニ戦争のローマの勝利には、ファビウスの働きが大きく貢献していると思うのだが。
他にもいろいろあるので、史実を知りたい人には、この本の内容を鵜呑みにせず、他の本と照らし合わせることを強くお勧めしたい。
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投稿者 augustus : 2005/07/23 17:34 | コメント (0) | トラックバック (0)
2005年07月18日
古代のエンジニアリング―ギリシャ・ローマ時代の技術と文化
古代のエンジニアリング―ギリシャ・ローマ時代の技術と文化J.G. ランデルズ(著), 宮城 孝仁(翻訳)
地人書館 (1995-11)
¥ 3,150
ISBN:978-4805205006
古代ギリシャ、ローマの技術に工学的見地から光を当てようとする著作。著者は古典学の学者だが、執筆にあたって工学や考古学の専門家の協力を得ている。古代の著作に書いてあることや考古学的発見の紹介にとどまらず、内容を工学的に検証しているところが大変興味深い。訳者、監訳者はいずれも工学畑の人で、工学的に正しい用語、内容表現を心がけたとのことである。
内容は
第1章 動力とエネルギー源
第2章 水の供給と処理
第3章 揚水機(ポンプ)
第4章 クレーンとウィンチ
第5章 カタパルト
第6章 船と海上輸送
第7章 陸上輸送
第8章 理論的知識の進歩
第9章 技術に関するギリシャ・ローマの主要な著述家
各章ともそれぞれ興味深いテーマを扱っているが、最も面白く感じたのが第6章である。軍船として帆船よりガレー船が扱いやすかった理由や、ガレー船の速度の推測などが興味深い。ガレー船は意外に速くて、現代のレース用8人乗りボートと同じくらいのスピードが出るのだそうだ。
投稿者 augustus : 2005/07/18 21:18 | コメント (0) | トラックバック (1)
2005年07月10日
ローマ帝国とキリスト教
世界の歴史〈5〉ローマ帝国とキリスト教弓削 達(著)
河出書房新社 (1989-08)
¥ 893
ISBN:978-4309471648
切っても切れない関係のローマ帝国とキリスト教。この本はローマ帝国をキリスト教の単なる背景としてではなく、「ローマ帝国」と「キリスト教」をどちらも主役として扱おうとしている。
建国から大帝国になるまでのローマの記述も面白く読めるが、初期キリスト教について書いてあるところが特に面白い。
例えば、イエスはユダヤの大評議会で死刑判決を受けるが、死刑の決定権はユダヤ総督ピラトがもっていた。ピラトはイエスが無罪だと思っていたが、死刑にせざるを得なくなる。なぜ、ピラトはイエスに死刑判決を下さざるを得なかったのだろうか。その理由がわかりやすく書いてある。
後の時代にパウロもユダヤ総督のところに連れて行かれるが、そのときの総督も政治的に不安定な立場にあって、かなり困ったらしい。
ローマ帝国とキリスト教の関わり合いについてはディオクレティアヌスとかコンスタンティヌスの時代のことが重要なのだが、紙数の問題か、この部分については記述があっさりしている。
投稿者 augustus : 2005/07/10 11:40 | コメント (0) | トラックバック (0)
2005年07月09日
古代ローマを知る事典
古代ローマを知る事典長谷川 岳男(著), 樋脇 博敏(著)
東京堂出版 (2004-09)
¥ 2,940
ISBN:978-4490106480
「3日でわかるローマ帝国」がローマが発展した理由、大帝国を維持できた理由にスポットを当てているのに対し、「古代ローマを知る事典」はローマ人の生活に大きな焦点が当てられている。
第1章では史料の分析の仕方について説明している。同時代の人の著作だからといって書いてあることをそのまま信じるわけにはいかない。書いた人の立場によるフィルターがかかっている場合も多いし、何度も繰り返し写本が作られていくうちに写し間違いだって起きるのだ。この章は短いが、私を含めて歴史を専門に学習したわけではない人々にはとてもためになる内容を含んでいる。
第2章、第3章では主に制度的な事が取り扱われている。第4章は通史、第5章はローマが大帝国になった理由を考察している。
第6章から第8章までで、人口、寿命、ライフサイクルを取り扱っている。この3つの章が最も面白い。
共和政ローマでは戸口調査が行われていたが、共和政末期には定期的には行われなくなってしまい、アウグストゥスが復活させたが、定着しなかった。だから、人口を調べるのも容易なことではないのだ。
寿命については、エジプトに残っている戸口調査の記録、「ウルピアヌスの生命表」と呼ばれる法史料、墓碑銘、発掘された骨などから推測するようなのだが、これもなかなか大変なことだ。その推測によると、ローマ人は生まれて1年以内に3割以上が死亡し、5歳の誕生日を迎えることができるのは半分くらいしかいないのだそうだ。
第9章ではローマの経済について書いている。 特に興味深かったのは、グリーンランドの氷の層に含まれる鉛や銅の量を時代毎に測定したグラフだ。ローマ時代はかなりの量の金属成分が検出されるが、それを越えるレベルになるのは、産業革命の頃になってからなのだそうだ。ローマ時代に鉱業が盛んであったことがとてもよくわかる。
この本は結論だけを書かずに専門外の人にもわかるように推論の理由を説明してくれている。歴史の学び方を示唆してくれているようで、実に素晴らしい本である。
投稿者 augustus : 2005/07/09 19:01 | コメント (0) | トラックバック (0)
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