2006年07月24日
多文化空間のなかの古代教会―異教世界とキリスト教〈2〉
多文化空間のなかの古代教会―異教世界とキリスト教〈2〉保坂 高殿
教文館 (2005-11)
¥ 2,625
ISBN:978-4764265882
同著者の『ローマ史のなかのクリスマス―異教世界とキリスト教〈1〉』の続編となる本で、帝政後期における主に一般信徒の宗教意識を詳しい資料とともに紹介している。
古代のキリスト教徒に対しては、「大迫害にもかかわらず堅固な信仰を守った人々」というイメージを持ちがちであるが、本書を見ると帝政末期の信徒たちはむしろ多神教的宗教意識を持ち司教たちが教化に苦労していたようだ。
第1章では教会会議決議その他の文献資料から、そういう異教に宥和的な信徒の姿を浮かび上がらせている。
例えば、永遠の命をキリスト教の神に願い、現世的で一時的なものをダイモーン(異教の神々)に祈願する信徒のことをアウグスティヌスが記述している。また、世俗的公務はもちろん、異教神官職までも兼ねる教会聖職者がいたことがわかり興味深い。
第2章では墓碑や壁画、彫刻に見られる一般信徒の宗教意識の分析である。これも異教的意識とキリスト教的意識が混在していることがわかりやすく説明されている。
例えば、D(is)M(anibus)「黄泉の神々へ」という異教墓碑の定型句がキリスト教徒の墓にも多数使われているのだ。また、ローマのいくつかのカタコンベにはオルフェウス・キリスト像が見られる。オルフェウスという異教神は死んだ妻エウリュディケーを追って黄泉に下り、ハーデースを魅了・呪縛してもう少しで妻奪還に成功するところだった。これがキリストの死に対する勝利と二重写しになったらしい。
エピローグの章も興味深い。感銘を受けた記述を2つ挙げておく。
『キリストもまた四世紀以降の諸皇帝にとっては「神々」の序列に入る、他の神々と並ぶ一人の神、しかしその配下に教会という堅固な組織を持つがゆえに利用価値の非常に高い一人の神であった。』
『社会はゆっくりと、そして表層的にキリスト教化する一方、逆に教会は異教化の方向に向かって一歩後退二歩前進を繰り返してきた。』
投稿者 augustus : 2006/07/24 12:20 | コメント (0) | トラックバック (0)
2006年07月11日
共和政ローマとトリブス制―拡大する市民団の編成
共和政ローマとトリブス制―拡大する市民団の編成砂田 徹(著)
北海道大学出版会 (2006-03)
¥ 9,975
ISBN:978-4832965614
トリブスというのは簡単に言ってしまえば共和政ローマの民会における投票単位であるのだが、その他にも戸口調査や徴兵などの単位でもあり、『古代ローマ人にとってその社会生活・政治生活の基本単位』であったようだ。有力者たちは地盤となるトリブスの拡大に努めたり、身分闘争の時代にはトリブスを通じて平民の説得にあたったりもしたらしい。
この本はトリブスについて詳しく論じたもので、こういうものが日本語で読めるのは実にありがたいことである。個人的には第3章と第4章が特に興味深く読めた。ローマの民会の仕組み等を知らない人には理解が困難な内容だが、各章の表題を見て面白そうだと感じる人は手にとってみると良いだろう。
序章 課題と研究史
第1章 ローマ市民団の拡大とトリブス
第2章 初期トリブスの内部構造―「身分闘争」との関連で
第3章 共和政中期における有力政治家のトリブス操作
第4章 共和政末期の選挙不正とトリブス
第5章 審判人とトリブス―トリブニ・アエラリィの再検討を中心に
第6章 都市トリブス再考―「トリブスから移す」とは何か
第7章 都市トリブスとローマ市民団の周縁―解放奴隷・役者・非嫡出子
終章 帝政期におけるトリブスの変質
投稿者 augustus : 2006/07/11 21:12 | コメント (0)
2006年03月19日
ゲルマンとダキアの戦士―ローマと戦った人々
ゲルマンとダキアの戦士―ローマと戦った人々Peter Wilcox(著), Gerry A. Embleton(彩色画), 斉藤 潤子(翻訳)
新紀元社 (2001-05)
¥ 1,050
ISBN:978-4883178728
ゲルマン人と言えばローマ帝国末期の大移動が有名であるが、ローマは共和政の時代からゲルマン人と戦ってきた。AD9年にはトイトブルクでローマの3個軍団が全滅するなど、ゲルマン人はローマの強力な敵であった。
ダキアはトラヤヌス記念柱にその征服が描かれていることで有名である。
そんなゲルマン人とダキア人の戦士たちの装備服装などをわかりやすく解説した本である。オスプレイ社の他の本と同様に彩色画が美しく、見ていて楽しい。
投稿者 augustus : 2006/03/19 19:34 | コメント (0) | トラックバック (0)
2006年03月12日
キリスト教の興隆とローマ帝国
キリスト教の興隆とローマ帝国豊田 浩志(著)
南窓社 (1994-02)
¥ 8,155
ISBN:978-4816501302
3世紀後半のキリスト教勢力のローマ帝国支配階層への進出過程を論じたもの。
第1章、第2章は支配階級でのキリスト教徒の進出状況が論じられている。属州総督や元老院議員の階層ではキリスト教徒はあまり多くなかったようだ。元老院階級に次ぐ支配階級である騎士身分のキリスト教徒もそう多くはないが帝国東半分で増加していたらしい。また、第1章は3世紀後半が帝国支配に騎士身分が重用された時代であったことを教えてくれる。
第3章はとても興味深い。皇帝フィリップス・アラブスがキリスト教徒であったという説を紹介し、その当否を検討している。
第4章、第5章はウァレリアヌスとその子ガリエヌスの対キリスト教政策を論じている。両者の政策は一見対照的だが帝国東部の支配権確保という見方をするとわかりやすいらしい。
「目から鱗」という感じがするところや、「え。そんなことがあったの。」とびっくりしながらも面白く読めるところが多くあった。
特に第3章に少しだけ書かれているゴルディアヌス3世戦病死説がとても興味深い。普通、ゴルディアヌス3世は次の皇帝フィリップス・アラブスに無慈悲に殺されたとされているが、実はペルシャ軍との戦争で負った傷がもとでの戦病死なのだそうだ。詳しくは著者の別論文に書いてあるそうなので、いずれ読んでみたいと思っている。
投稿者 augustus : 2006/03/12 08:43 | コメント (2) | トラックバック (0)
2006年03月05日
アルバのアスカニオ
Mozart: Ascanio in AlbaWolfgang Amadeus Mozart(作曲),
Jacques Grimbert(指揮), Budapest Concerto Armonico 他
¥ 1,862
アスカニオは有名なアエネアスの息子で、アルバを建国した。ローマを建国したロムルスは彼の子孫である。
アルバ建国などの歴史的な話はほとんど含まれていなく、アスカニオとその許嫁を讃え、婚礼を祝う内容である。15歳のモーツァルトの作曲したオペラで、ハプスブルグ家の大公の婚礼祝いのために書かれた 。わずか15歳でこんなオペラを作ることが出来るとは、やはりモーツァルトは天才だ。
あらすじについては以下のページが参考になる。
http://www7.airnet.ne.jp/art/ez2/o/work/Ascanio/1.html
投稿者 augustus : 2006/03/05 10:58 | コメント (0) | トラックバック (0)
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