永遠の都ローマ物語―地図を旅する
永遠の都ローマ物語―地図を旅する西村書店 (2009/03)
Gilles Chaillet (原著), 青柳 正規 (翻訳), 野中 夏実 (翻訳)
¥ 2,940
ISBN: 978-4890136339
詳細な絵地図で古代ローマを鳥瞰できる実に楽しい本。
コンスタンティヌス1世の時代の地方都市ヘラクレイアの青年が密使として皇帝に謁見するためにローマを訪れるという設定で書かれている。
彼の日記を読みながら、絵地図を眺めると一緒に旅をしているような気分だ。(「地球の歩き方」を読んでいるような感じに似ている。)
絵地図を眺めていると、大きな戦車競技場、公共浴場がたくさんあることに今さらながら気づかされる。当時の戦車競技場の跡が現在広場になっているようなところもあるので、現在の地図と見比べてみるのも興味深いだろう。
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お風呂の歴史
お風呂の歴史ドミニック・ラティ(著), 高遠 弘美(翻訳)
白水社 [文庫クセジュ] (2006-02-15)
¥ 999
ISBN:978-4560508978
西欧における入浴や水泳の歴史を簡単にまとめた本で、 ローマ世界における入浴についても20ページほどが充てられている。
他の本で同内容を読んだことのある人も多いだろうが、ローマ関係で興味深いと思われたところを挙げてみる。
- 流水をすばやくシャワーのように降りかけていたヘレニズム時代の習慣はすたれ、ゆっくりと身を沈めるローマ式入浴が広がった。
- 水泳や冷水浴を愛したセネカは、九日に一回の市の日しか浴場に行かない同時代の人々を非難した。
- ローマ市における公衆浴場の入場料は、男性4分の1アス、子ども無料で、女性はもっと高かった。(この金額の根拠については書いてなかった。)
他地域はローマ市より高かった。 - カラカラの共同浴場は昼夜営業で千人を超える入浴客を迎えることができた。ディオクレティアヌスの浴場は三千二百人の収容能力を誇った。
- 入浴の順序は、
- 発汗室(蒸気で湿った部屋なら「テピダリウム」、乾燥した部屋なら「スダトリウム」、「ラコニクム」と呼ばれた。)
- 湯浴の部屋。(「カルダリウム」熱い部屋)
- 冷水浴の部屋。(「フリギダリウム」涼しくする部屋)
- 「デストリクタリウム」(入浴後、肌かき器で体を擦る部屋)
または、「ウンクタリウム」(塗油やマッサージをしてもらう部屋)
- 共同浴場の階上に住んでいたセネカは、鉛のバーベルや競技者の喘ぎ声や物売りの叫びが混ざった耳障りな音が飛び交う騒々しい場所だと嘆いている。
中世以降はフランスを中心とした入浴事情が語られている。中世初期には入浴習慣は減ってしまったが、十三、四世紀には入浴が普及した。しかし、ルネサンス期にはまた減ってしまう。十六世紀に書かれた医学書にはペスト流行を防ぐには入浴は大敵であることまで書かれているらしい。
入浴が再び見直されるのは十八世紀になってからのことのようだ。
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古代ローマの日常生活
古代ローマの日常生活ピエール グリマル(著), 北野 徹(翻訳)
白水社 (2005-03)
¥ 999
ISBN:978-4560508855
ローマの建国の頃からセウェルス朝の頃までの約1000年間を4つに区分して、 各時代の日常生活の様子をコンパクトにまとめている。
住宅、衣服、食べ物のこと、家族制度のこと、子供の教育の様子、職人の仕事の ことなど取り上げる内容は多岐にわたっており描写も具体的でわかりやすい。
共和政ローマの貨幣についての記述があるのは、ローマコインファンとしては素直にうれしい。
しかし、「ローマが最初に銀貨を発行したのは紀元前211年」という記述が 訳注にあるのは何かの誤りだろう。細かいことではあるが、紀元前211年は「最初のデナリウス銀貨が発行された年であり、 銀貨はもっと古く紀元前280年頃から発行されている。
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碑文から見た古代ローマ生活誌
碑文から見た古代ローマ生活誌ローレンス ケッピー(著), 小林 雅夫, 梶田 知志(翻訳)
原書房 (2006-07)
¥ 2,625
ISBN:978-4562040261
古代ローマ人がその長い歴史的歩みの中でつちかってきた「碑文」という文化、そして碑文研究を通じて古代ローマ世界の再構築を試みる研究者たちの活動を、古代ローマ史・碑文学研究を専門としない人々、大学の学部学生を含めた一般の人々に、広く認知し、理解してほしいという意図のもとに書かれた啓蒙書です。(訳者あとがきより)
言うまでもなく碑文は古代ローマについての第一級の資料であるが、私を含めて歴史を専門としない者には碑文の読み方を学ぶ機会がほとんど無い。本書のような日本語で読めるローマの碑文学入門書が出版されるのは初めてではないだろうか。実にありがたいことである。
第3章には碑文解読の入門的な知識がまとめられている。字体、略語、人名について、また、石材に合わせてスペースを省略する方法として合字(繋がった文字)が紹介されている。
この章の数詞について解説している部分には貨幣にも関係する面白いことが書かれている。貨幣単位のセステルティウスをHSと書くだが、それがIISから来ているというのだ。セステルティウスは1/4デナリウスなのだが、1デナリウスは当初は10アスであり(後に16アスになる)、1セステルティウスは2.5アスに相当する。Iはローマ数字でお馴染みの1、Sはsemis(半分)の略なので、IISは1+1+0.5=2.5になる。アルファベットと数詞を区別するためにIISの中段に横線を引いたものがHSになったのだ(IとIの間に横線を引いてみるとはっきりする)。
4章から6章までは碑文の年代測定のこと、どのようにして碑文が失われていったかについて、また、集められた碑文の記録と出版の歴史が扱われている。
第7章から第17章までは分野別に碑文からどういうことが分かるかを実例をあげて解説している。各章それぞれ実に興味深い内容である。
第17章にAVG(アウグストゥス)の複数形をAVGGなどと書くのがディオクレティアヌスの頃から始まったように読めるところがあるが、セウェルス朝の頃の実例を見たことがあるので、たぶん何かの誤りだろう。また、一部に誤植はあるが(アントニウス・ピウスと書いてあったりする^^)、そういう細かい誤りを差し引いても素晴らしい本なので全てのローマファンにお勧めしたい。
第1章 序―歴史を塗りかえる碑文
第2章 石切職人とその技術
第3章 碑文の解読法
第4章 碑文の年代推定
第5章 碑文の残存
第6章 記録と出版
第7章 碑文における皇帝
第8章 地方と社会
第9章 ローマへと続く道
第10章 ローマ帝国の運営
第11章 軍隊と前線
第12章 神々の神殿と祭壇
第13章 墓石と記念物
第14章 交易、経済と商業
第15章 POPULUSQUE ROMANUS
第16章 キリスト教
第17章 最後のローマ帝国
第18章 結論―碑文の価値
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多文化空間のなかの古代教会―異教世界とキリスト教〈2〉
多文化空間のなかの古代教会―異教世界とキリスト教〈2〉保坂 高殿
教文館 (2005-11)
¥ 2,625
ISBN:978-4764265882
同著者の『ローマ史のなかのクリスマス―異教世界とキリスト教〈1〉』の続編となる本で、帝政後期における主に一般信徒の宗教意識を詳しい資料とともに紹介している。
古代のキリスト教徒に対しては、「大迫害にもかかわらず堅固な信仰を守った人々」というイメージを持ちがちであるが、本書を見ると帝政末期の信徒たちはむしろ多神教的宗教意識を持ち司教たちが教化に苦労していたようだ。
第1章では教会会議決議その他の文献資料から、そういう異教に宥和的な信徒の姿を浮かび上がらせている。
例えば、永遠の命をキリスト教の神に願い、現世的で一時的なものをダイモーン(異教の神々)に祈願する信徒のことをアウグスティヌスが記述している。また、世俗的公務はもちろん、異教神官職までも兼ねる教会聖職者がいたことがわかり興味深い。
第2章では墓碑や壁画、彫刻に見られる一般信徒の宗教意識の分析である。これも異教的意識とキリスト教的意識が混在していることがわかりやすく説明されている。
例えば、D(is)M(anibus)「黄泉の神々へ」という異教墓碑の定型句がキリスト教徒の墓にも多数使われているのだ。また、ローマのいくつかのカタコンベにはオルフェウス・キリスト像が見られる。オルフェウスという異教神は死んだ妻エウリュディケーを追って黄泉に下り、ハーデースを魅了・呪縛してもう少しで妻奪還に成功するところだった。これがキリストの死に対する勝利と二重写しになったらしい。
エピローグの章も興味深い。感銘を受けた記述を2つ挙げておく。
『キリストもまた四世紀以降の諸皇帝にとっては「神々」の序列に入る、他の神々と並ぶ一人の神、しかしその配下に教会という堅固な組織を持つがゆえに利用価値の非常に高い一人の神であった。』
『社会はゆっくりと、そして表層的にキリスト教化する一方、逆に教会は異教化の方向に向かって一歩後退二歩前進を繰り返してきた。』
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ローマ史のなかのクリスマス―異教世界とキリスト教〈1〉
ローマ史のなかのクリスマス―異教世界とキリスト教〈1〉保坂 高殿(著)
教文館 (2005-10)
¥ 2,625
ISBN:978-4764265875
本書はクリスマスの起源を明らかにすることを目指して書かれている。クリスマスは4世紀初頭に不敗の太陽神の祝祭から借用されたものという説明が以前から為されてきていたが、それだけだと、なぜ4世紀初頭になって初めてクリスマスがキリスト教会に導入されたのかが不自然である。本書はそういう問題も含めてなるべく多くの資料を引用しながらわかりやすく説明してくれる。
古代ローマの多くのキリスト教徒は、キリスト教に改宗した後もそれまでの多神教的生き方を変えたわけではなかった。現世的利益を願って異教の神を拝し、異教の祝祭に喜んで参加する人たちであった。異教の祝祭へ行って教会へ来なくなる多くの信徒をどうするかが教会指導者には大問題であり、その解決策として渋々導入されたのがクリスマスをはじめとするキリスト教の祝祭であったらしい。
クリスマスは当時盛んだった太陽神の祝祭から信徒を取り戻すためものであった。だから太陽が復活する冬至の頃に行われる。信徒にもキリストを「真の太陽」とか「新しい太陽」と説明して、異教的祝祭からキリスト教的祝祭へと導いたのであった。
こういう説明はきっぱりと異教に決別した信仰心篤いキリスト教徒をイメージすると大きな違和感があるが、多神教的枠組みの中に生きておりなおかつ普段はそれすらも意識しない我々多くの日本人には納得しやすいもののように思う。当時のローマ帝国のキリスト教徒もきっとよく似た感じ方をする人たちだったのだろう。
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グラディエイター―古代ローマ剣闘士の世界
グラディエイター―古代ローマ剣闘士の世界ステファン ウィズダム(著), 斉藤 潤子(翻訳), アンガス マックブライド(彩色画)
新紀元社 (2002-06)
¥ 1,890
ISBN:978-4775300909
古代ローマの剣闘士について、その装備、生活などを豊富な図版とともに詳しく解説している。
剣闘士の試合はローマ世界で大人気のショーであった。一口に剣闘士と言っても、観客を飽きさせないため、種類の異なるいろいろな剣闘士がいる。トラキア剣闘士とか魚人剣闘士等々、言葉だけで説明されてもよく分からないが、鮮やかな彩色画を見ながら解説を読むと分かりやすいものである。
映画のシーンなどでは試合に負けた剣闘士は、偉い人が親指を下に向ければ殺され、親指を上に向ければ助けられている。しかし、この本によるとそれは逆らしい。
歴史学者たちは観客が死を宣告する指の仕草について長年議論を重ねてきた。現在は、親指を突き上げた拳と共に「斬り殺せこのように結論した根拠は書かれていないが、その点についての研究史も知りたいものである。」と叫べば処刑し、親指を下げれば武器を置いて放免したと考えられている。
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古代ローマを知る事典
古代ローマを知る事典長谷川 岳男(著), 樋脇 博敏(著)
東京堂出版 (2004-09)
¥ 2,940
ISBN:978-4490106480
「3日でわかるローマ帝国」がローマが発展した理由、大帝国を維持できた理由にスポットを当てているのに対し、「古代ローマを知る事典」はローマ人の生活に大きな焦点が当てられている。
第1章では史料の分析の仕方について説明している。同時代の人の著作だからといって書いてあることをそのまま信じるわけにはいかない。書いた人の立場によるフィルターがかかっている場合も多いし、何度も繰り返し写本が作られていくうちに写し間違いだって起きるのだ。この章は短いが、私を含めて歴史を専門に学習したわけではない人々にはとてもためになる内容を含んでいる。
第2章、第3章では主に制度的な事が取り扱われている。第4章は通史、第5章はローマが大帝国になった理由を考察している。
第6章から第8章までで、人口、寿命、ライフサイクルを取り扱っている。この3つの章が最も面白い。
共和政ローマでは戸口調査が行われていたが、共和政末期には定期的には行われなくなってしまい、アウグストゥスが復活させたが、定着しなかった。だから、人口を調べるのも容易なことではないのだ。
寿命については、エジプトに残っている戸口調査の記録、「ウルピアヌスの生命表」と呼ばれる法史料、墓碑銘、発掘された骨などから推測するようなのだが、これもなかなか大変なことだ。その推測によると、ローマ人は生まれて1年以内に3割以上が死亡し、5歳の誕生日を迎えることができるのは半分くらいしかいないのだそうだ。
第9章ではローマの経済について書いている。 特に興味深かったのは、グリーンランドの氷の層に含まれる鉛や銅の量を時代毎に測定したグラフだ。ローマ時代はかなりの量の金属成分が検出されるが、それを越えるレベルになるのは、産業革命の頃になってからなのだそうだ。ローマ時代に鉱業が盛んであったことがとてもよくわかる。
この本は結論だけを書かずに専門外の人にもわかるように推論の理由を説明してくれている。歴史の学び方を示唆してくれているようで、実に素晴らしい本である。
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食卓歓談集
食卓歓談集プルタルコス(著), 柳沼 重剛(翻訳)
岩波書店 (1987-10)
¥ 693
ISBN:978-4003366431
対比列伝で有名なプルタルコスが宴席での楽しい会話を記録したもの。(あるいはそういう形式で書いたもの。)
取り上げられるテーマは気楽で興味深いものが多い。 例えば、「鶏と卵ではどちらが先か」、「なぜ塩は神聖だと考えられるのか」、「酒席で哲学談義をしてもよいか。」等々、どこから読んでも楽しめるだろう。