古代ローマ世界を旅する
古代ローマ世界を旅する吉村 忠典 (著)
刀水書房 (2009/10)
¥ 2,100
ISBN:978-4887083820
同著者による「古代ローマ帝国の研究」は研究者向けの論文集だが、本書は一般読者向けに書かれた啓蒙的なものをまとめたものである。
第6章を除いては、共和政時代のローマ人による支配の仕組みを扱っている。特に第2章は、我々の持つ「自由」という言葉に対するイメージと違った古代の「自由」が分かって興味深い。
1. 共和政のローマ社会
2. 自由という名の支配
3. 「帝国」とは何だろう
4. ハンニバル以後のカルタゴ
5. シチリアの悪総督
6. ローマ時代のフランス
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「帝国」としての中期共和政ローマ
「帝国」としての中期共和政ローマ比佐 篤(著)
晃洋書房 (2006-04)
¥ 3,780
ISBN:978-4771016989
中期共和政ローマが「都市国家」でありながら「帝国」としての特性を備えていった過程を明らかにしようとする論文集。
第1部で制度史を中心にしつつ、ローマがどのような意識をもって対外政策に臨んでいたのかを考察し、第2部で対外政策を担った個々の政治家たちが持っていたローマの対外政策全体とは異なる個々人の意図を主に扱っている。 大雑把に言うと中期共和政ローマでは対外政策よりもイタリア統治を重視していたが、個々人は対外戦争などで功績を挙げて立身に役立てたいという意識が強かったらしい。
第8章でQ・マルキウス・フィリップスという戦争による功績によらずに立身出世を成し遂げた元老院議員が紹介されている。その中で彼の子孫が発行した貨幣の図象がマケドニアを想起させるものであることを補強資料に挙げている。
コインの研究がこういうふうに役立っているのは興味深い。今後、ローマコインについて取り上げてくれる研究者がさらに増えていくことを期待したい。
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ローマ五賢帝―「輝ける世紀」の虚像と実像
ローマ五賢帝―「輝ける世紀」の虚像と実像南川 高志(著)
講談社 (1998-01)
¥ 756
ISBN:978-4061493896
教科書的には五賢帝と言えば、「優れた皇帝が元老院議員の中から最も優れた者を養子にして 後継者としたため、英明な皇帝が続いた時代。人類が最も幸福だった時代。」 ということになっている。しかし、実態はそんな綺麗ごとですまされるようなものではなかった。
ドミティアヌス暗殺後に即位した五賢帝一人目のネルウァはドミティアヌス派と 反ドミティアヌス派の政争の中で権力基盤が不安定であった。
トラヤヌスを養子にしたのは、軍事力をもった有力者を後継者として自己の権力を 安定させようとしたものだが、実はトラヤヌスに匹敵する有力候補が他に居て、 厳しい権力闘争が行なわれていたらしい。
こういう五賢帝時代の陰の部分を炙り出して見せてくれるのが本書である。
トラヤヌス以降の各皇帝の時代についても資料をもとに綺麗ごとでない五賢帝時代の実像をわかりやすく描いている。新しい研究成果も含まれており、歴史の面白さを実感させてくれる良書だと思う。
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共和政ローマとトリブス制―拡大する市民団の編成
共和政ローマとトリブス制―拡大する市民団の編成砂田 徹(著)
北海道大学出版会 (2006-03)
¥ 9,975
ISBN:978-4832965614
トリブスというのは簡単に言ってしまえば共和政ローマの民会における投票単位であるのだが、その他にも戸口調査や徴兵などの単位でもあり、『古代ローマ人にとってその社会生活・政治生活の基本単位』であったようだ。有力者たちは地盤となるトリブスの拡大に努めたり、身分闘争の時代にはトリブスを通じて平民の説得にあたったりもしたらしい。
この本はトリブスについて詳しく論じたもので、こういうものが日本語で読めるのは実にありがたいことである。個人的には第3章と第4章が特に興味深く読めた。ローマの民会の仕組み等を知らない人には理解が困難な内容だが、各章の表題を見て面白そうだと感じる人は手にとってみると良いだろう。
序章 課題と研究史
第1章 ローマ市民団の拡大とトリブス
第2章 初期トリブスの内部構造―「身分闘争」との関連で
第3章 共和政中期における有力政治家のトリブス操作
第4章 共和政末期の選挙不正とトリブス
第5章 審判人とトリブス―トリブニ・アエラリィの再検討を中心に
第6章 都市トリブス再考―「トリブスから移す」とは何か
第7章 都市トリブスとローマ市民団の周縁―解放奴隷・役者・非嫡出子
終章 帝政期におけるトリブスの変質
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キリスト教の興隆とローマ帝国
キリスト教の興隆とローマ帝国豊田 浩志(著)
南窓社 (1994-02)
¥ 8,155
ISBN:978-4816501302
3世紀後半のキリスト教勢力のローマ帝国支配階層への進出過程を論じたもの。
第1章、第2章は支配階級でのキリスト教徒の進出状況が論じられている。属州総督や元老院議員の階層ではキリスト教徒はあまり多くなかったようだ。元老院階級に次ぐ支配階級である騎士身分のキリスト教徒もそう多くはないが帝国東半分で増加していたらしい。また、第1章は3世紀後半が帝国支配に騎士身分が重用された時代であったことを教えてくれる。
第3章はとても興味深い。皇帝フィリップス・アラブスがキリスト教徒であったという説を紹介し、その当否を検討している。
第4章、第5章はウァレリアヌスとその子ガリエヌスの対キリスト教政策を論じている。両者の政策は一見対照的だが帝国東部の支配権確保という見方をするとわかりやすいらしい。
「目から鱗」という感じがするところや、「え。そんなことがあったの。」とびっくりしながらも面白く読めるところが多くあった。
特に第3章に少しだけ書かれているゴルディアヌス3世戦病死説がとても興味深い。普通、ゴルディアヌス3世は次の皇帝フィリップス・アラブスに無慈悲に殺されたとされているが、実はペルシャ軍との戦争で負った傷がもとでの戦病死なのだそうだ。詳しくは著者の別論文に書いてあるそうなので、いずれ読んでみたいと思っている。
目次
序章 「大迫害」直前のローマ帝国とキリスト教
第1章 帝国支配身分とキリスト教
第2章 紀元三、四世紀におけるキリスト教と帝国支配身分
第3章キリスト教皇帝フィッリップス・アラプス
第4章 皇帝ウァレリアヌスとキリスト教迫害
第5章 皇帝ガッリエヌスとキリスト教公認勅答令
終章 「キリスト教ローマ帝国」への道
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西洋法制史料選 1 古代 (1)
西洋法制史料選 1 古代 (1)創文社 (2004-03)
¥ 6,825
ISBN:978-4423740378
古代ローマの法に関する一次史料を和訳し、原文と解説もつけたもの。
ローマの法だけでなく政治的な動きについても大いに参考になる史料がまとまっていてありがたい。内容は以下の通り。
1. 王法
2. 十二表法
3. パトリキとプレーブスの身分闘争に関する史料
4. 共和政務官表
5. 不法徴収返還請求に関するアキーリウス法
6. 土地法(前111年)
7. 神皇アウグストゥス業績録
8. ウェスパシアーヌスの命令権に関する法律
9. 属州行政に関するプリーニウスの書簡
10. 永久告知録
11. ガーイウス 法学提要
12. アクィーリウス法とそれをめぐる法学説の展開
13. 引用法(426年)
14. テオドシウス法典
15. ローマ法大全
特に興味深いのは「パトリキとプレーブスの身分闘争に関する史料」の部分。権力闘争の結果が法律に現れてくるところなどがローマ人らしくて面白い。
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ガーイウス法学提要
ガーイウス法学提要佐藤 篤士(翻訳), 早稲田大学ローマ法研究会(翻訳)
敬文堂 (2004-09)
¥ 5,775
ISBN:978-4767001029
ユスティニアヌスの「ローマ法大全」に採り入れられ、後の世のローマ法に多大な影響を残した「法学提要」の邦訳。
著者のガイウスは2世紀頃の法学教師だったらしい。「法学提要」は生徒に法律を教える教科書として書かれたもののようである。だから、比較的分かりやすく、分量もそう多くないから読みやすい。
もともとは単なる教科書だから法源としての力はなかったのだが、5世紀にはテオドシウス2世とウァレンティニアヌス3世の勅法によって、ガイウスなど5人の法律家の意見が法律同様の効果を持つようになった。
そして6世紀、ユスティニアヌス帝の命令でローマ法大全が作られたが、法学提要にはガイウスの内容も含まれ、彼の名は不朽のものとなった。
中身は法を人、物、訴訟についてのものに分類して扱っている。読んでみると法律を巧みに運用していたローマ人の姿が想像され興味深い。
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共和政ローマの寡頭政治体制―ノビリタス支配の研究
共和政ローマの寡頭政治体制―ノビリタス支配の研究安井 萠(著)
ミネルヴァ書房 (2005-03)
¥ 7,140
ISBN:978-4623042661
共和政ローマでのノビリタス支配がどのようにして成立し崩壊したのかを論考している。
管理人augustusが特に興味を持ったのは第2章と第3章で、共和政ローマでの政務官の選挙のメカニズムを取り扱っている。以前はクリエンテスがパトロネスのために投票したので、多くのクリエンテスを持つ者が当選したように思っていたのだが、そんな単純なものではないことがわかる。また、クアエストルからはじまる政務官の序列も最初から固定されていたわけではないことも教えてくれる。
第4章の最後の方では共和政ローマで貨幣が担った宣伝効果についても書かれており、ローマコインファンとしては嬉しい。(ちなみにコインについては Roman Republic Coinage を主に参照しているようだが、この本はかなり高価なのだ。)