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2006年07月30日
古代ローマ歴代誌―7人の王と共和政期の指導者たち
古代ローマ歴代誌―7人の王と共和政期の指導者たちフィリップ マティザック(著), 東 真理子(翻訳)
創元社 (2004-09)
¥ 3,780
ISBN:978-4422215181
ローマ建国からの7人の王、それから共和政時代の有力者たちの事績を時代順、人物別に記述した本。
王政期や共和政初期については伝説上の話も多いのだが、伝説の陰に隠された真実についても考察している。中期になるとスキピオ、ファビウス、大カトー、グラックス兄弟など多くの興味深い話を残した有名人が目白押しである。共和政末期には内乱と政争の中にどろどろした人間模様を見ることができるだろう。
図版も多くて読みやすい。各人物の物語を楽しむのも良いし、共和政人物事典として有効に活用することもできる。
投稿者 augustus : 05:59 | コメント (0) | トラックバック
2006年07月24日
多文化空間のなかの古代教会―異教世界とキリスト教〈2〉
多文化空間のなかの古代教会―異教世界とキリスト教〈2〉保坂 高殿
教文館 (2005-11)
¥ 2,625
ISBN:978-4764265882
同著者の『ローマ史のなかのクリスマス―異教世界とキリスト教〈1〉』の続編となる本で、帝政後期における主に一般信徒の宗教意識を詳しい資料とともに紹介している。
古代のキリスト教徒に対しては、「大迫害にもかかわらず堅固な信仰を守った人々」というイメージを持ちがちであるが、本書を見ると帝政末期の信徒たちはむしろ多神教的宗教意識を持ち司教たちが教化に苦労していたようだ。
第1章では教会会議決議その他の文献資料から、そういう異教に宥和的な信徒の姿を浮かび上がらせている。
例えば、永遠の命をキリスト教の神に願い、現世的で一時的なものをダイモーン(異教の神々)に祈願する信徒のことをアウグスティヌスが記述している。また、世俗的公務はもちろん、異教神官職までも兼ねる教会聖職者がいたことがわかり興味深い。
第2章では墓碑や壁画、彫刻に見られる一般信徒の宗教意識の分析である。これも異教的意識とキリスト教的意識が混在していることがわかりやすく説明されている。
例えば、D(is)M(anibus)「黄泉の神々へ」という異教墓碑の定型句がキリスト教徒の墓にも多数使われているのだ。また、ローマのいくつかのカタコンベにはオルフェウス・キリスト像が見られる。オルフェウスという異教神は死んだ妻エウリュディケーを追って黄泉に下り、ハーデースを魅了・呪縛してもう少しで妻奪還に成功するところだった。これがキリストの死に対する勝利と二重写しになったらしい。
エピローグの章も興味深い。感銘を受けた記述を2つ挙げておく。
『キリストもまた四世紀以降の諸皇帝にとっては「神々」の序列に入る、他の神々と並ぶ一人の神、しかしその配下に教会という堅固な組織を持つがゆえに利用価値の非常に高い一人の神であった。』
『社会はゆっくりと、そして表層的にキリスト教化する一方、逆に教会は異教化の方向に向かって一歩後退二歩前進を繰り返してきた。』
投稿者 augustus : 12:20 | コメント (0) | トラックバック
2006年07月11日
共和政ローマとトリブス制―拡大する市民団の編成
共和政ローマとトリブス制―拡大する市民団の編成砂田 徹(著)
北海道大学出版会 (2006-03)
¥ 9,975
ISBN:978-4832965614
トリブスというのは簡単に言ってしまえば共和政ローマの民会における投票単位であるのだが、その他にも戸口調査や徴兵などの単位でもあり、『古代ローマ人にとってその社会生活・政治生活の基本単位』であったようだ。有力者たちは地盤となるトリブスの拡大に努めたり、身分闘争の時代にはトリブスを通じて平民の説得にあたったりもしたらしい。
この本はトリブスについて詳しく論じたもので、こういうものが日本語で読めるのは実にありがたいことである。個人的には第3章と第4章が特に興味深く読めた。ローマの民会の仕組み等を知らない人には理解が困難な内容だが、各章の表題を見て面白そうだと感じる人は手にとってみると良いだろう。
序章 課題と研究史
第1章 ローマ市民団の拡大とトリブス
第2章 初期トリブスの内部構造―「身分闘争」との関連で
第3章 共和政中期における有力政治家のトリブス操作
第4章 共和政末期の選挙不正とトリブス
第5章 審判人とトリブス―トリブニ・アエラリィの再検討を中心に
第6章 都市トリブス再考―「トリブスから移す」とは何か
第7章 都市トリブスとローマ市民団の周縁―解放奴隷・役者・非嫡出子
終章 帝政期におけるトリブスの変質