« 共和政ローマとトリブス制―拡大する市民団の編成 | メイン | 古代ローマ歴代誌―7人の王と共和政期の指導者たち »

多文化空間のなかの古代教会―異教世界とキリスト教〈2〉

多文化空間のなかの古代教会―異教世界とキリスト教〈2〉
保坂 高殿
教文館 (2005-11)
¥ 2,625
ISBN:978-4764265882

同著者の『ローマ史のなかのクリスマス―異教世界とキリスト教〈1〉』の続編となる本で、帝政後期における主に一般信徒の宗教意識を詳しい資料とともに紹介している。
古代のキリスト教徒に対しては、「大迫害にもかかわらず堅固な信仰を守った人々」というイメージを持ちがちであるが、本書を見ると帝政末期の信徒たちはむしろ多神教的宗教意識を持ち司教たちが教化に苦労していたようだ。

第1章では教会会議決議その他の文献資料から、そういう異教に宥和的な信徒の姿を浮かび上がらせている。
例えば、永遠の命をキリスト教の神に願い、現世的で一時的なものをダイモーン(異教の神々)に祈願する信徒のことをアウグスティヌスが記述している。また、世俗的公務はもちろん、異教神官職までも兼ねる教会聖職者がいたことがわかり興味深い。

第2章では墓碑や壁画、彫刻に見られる一般信徒の宗教意識の分析である。これも異教的意識とキリスト教的意識が混在していることがわかりやすく説明されている。
例えば、D(is)M(anibus)「黄泉の神々へ」という異教墓碑の定型句がキリスト教徒の墓にも多数使われているのだ。また、ローマのいくつかのカタコンベにはオルフェウス・キリスト像が見られる。オルフェウスという異教神は死んだ妻エウリュディケーを追って黄泉に下り、ハーデースを魅了・呪縛してもう少しで妻奪還に成功するところだった。これがキリストの死に対する勝利と二重写しになったらしい。

エピローグの章も興味深い。感銘を受けた記述を2つ挙げておく。
『キリストもまた四世紀以降の諸皇帝にとっては「神々」の序列に入る、他の神々と並ぶ一人の神、しかしその配下に教会という堅固な組織を持つがゆえに利用価値の非常に高い一人の神であった。』
『社会はゆっくりと、そして表層的にキリスト教化する一方、逆に教会は異教化の方向に向かって一歩後退二歩前進を繰り返してきた。』

投稿者 augustus : 2006年07月24日 12:20

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.augustus.to/cgi-bin/blog/mt-tb.cgi/115

コメント

コメントを歓迎します。




保存しますか?



古代ローマ (ローマ帝国の歴史とコイン)
古代ローマ (ローマ帝国の歴史とコイン)